森羅万象 around 千歳山

山形大学で生物(行動生態)を教えています。 受講する学生とあまり話す時間がないので、自己紹介的な意味で、日々徒然なることを書き留めることにしました。 [短縮url: goo.gl/DiKCjL]

カテゴリ:研究室内連絡 > 研究室ゼミ

2016年5月24日は、M君が以下の論文を紹介してくれました。

Harts et al. (2016) Evolution of natal and breeding dispersal: when is a territory an asset worth protecting? Behavioral Ecology 27(1):287-294.

本論文は、繁殖縄張りを作る生物において、分散率がどのように進化するのか解析しています。

繁殖には縄張りが必要なのに、分散すると縄張りは失われ、新たに確保しなければならない条件なので、良質な生息地に繁殖縄張りを確保できた個体は、予想通り分散率が低く抑えられます。

しかし意外なことに、占有している繁殖縄張りの質が低いことを自覚している個体は、成体の死亡率が高いと、縄張りを持たない個体以上に、分散しやすくなると予想されます。

死亡率が高いと、占有者が死んで縄張りが空きやすくなるのに加え、非占有者が死ぬことでライバルも減るので、分散によって低質の縄張りを失っても、良質の縄張りを得やすくなるようです。

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2016年5月17日は、O君が以下の論文を紹介してくれました。

Brom et al. (2016) Kin competition drives the evolution of sex-biased dispersal under monandry and polyandry, not under monogamy. Animal Behaviour 113:157-166.

本論文は、メタ個体群を模した個体ベースモデルを用いて、血縁者間の競争と配偶システム(monogamy, monandry, polyandry)が、性特異的な分散の進化に与える影響を解析しています。

この際、配偶システムの定義は以下のとおりです。
monogamy: 雌雄とも、生涯交尾相手は1匹だけ。厳密な意味での一夫一妻。 なので、性比が1:1から離れると、交尾できない個体が生じる。

monandry: 雌の交尾相手は生涯1匹だが、オスの交尾は無制限。一夫多妻と訳して問題ないが、婚姻関係もハレムの形成も仮定していないことに注意。

polyandry: 雌雄とも、交尾相手の数に制限なし。なので、父親が異なる半兄弟も、腹違いの半兄弟も生じうる。 一妻多夫という訳は、明白な間違い。乱婚の方が、定義に近い。

雌雄とも、個体群密度と遺伝的に決まっている閾値に基づいて、生涯1回無作為に選ばれたパッチに分散すると、仮定されています。

各パッチの環境収容力は、空間的にも経時的にも変動されます。

シミュレーションを実行した結果、雄が1回交尾の monogamy では分散率に性差が生じないが、 雄の交尾に制限がない monandry と polyandry ではオス特異的な分散が進化していました。

また、毎世代個体をパッチ間で無作為にシャッフルする行程を加えて、パッチ内とパッチ間の血縁度を揃えると、分散率は全体的に低下し、monandry と polyandry であっても性差がなくなることを示しています。

 

2016年5月10日は、卒論生のM君が以下の論文を紹介してくれました。

Baudier et al. (2015) Microhabitat and body size effects on heat tolerance: implications for responses to climate change (army ants: Formicidae, Ecitoninae). J Anim Ecol 84(5):1322-30.

本論文は、耐熱性が生息域に与える影響を明らかにするために、主たる生息地と耐熱性(CTmax)の関係を、グンタイアリ亜科で種間比較しています。

生息地のタイプは、3つに大別していますが(地表棲, 中間的, 地中棲)、地表棲に近いほど単眼の相対サイズが大きいことを利用して、量的な値として解析に用いています。

耐熱性(CTmax)は、採集したワーカーをエッペンに入れて、ヒートブロックに入れて死滅する温度を調べています。

結果、系統的制約の考慮の有無に関わらず、単眼が大きい(より地表棲)の種ほど、耐熱性(CTmax)が高いことが分かりました。

体サイズも大きいほど耐熱性(CTmax)は高く、その傾向は地中棲のアリで強かったようです。

2016年4月19,26日は、院生のK君が以下の文献を紹介してくれました。

Sasson et al.(2016). Resource quality affects weapon and testis size and the ability of these traits to respond to selection in the leaf‐footed cactus bug, Narnia femorata. Ecology and Evolution.

ざっくり言うと、ヘリカメムシ亜科のN. femorataを対象に、配偶競争に有利な武器形質(腿)と、精子競争に有利な精巣サイズの、環境と遺伝の相互作用を調査した研究です。

具体的には、半きょうだいを用いた量的遺伝学的調査なのですが、あえて餌の質を変えた処理を作ることで、適応的な形質の進化可能性が、環境にどのように影響されるのか明らかにしようとしています。

結果的に、高栄養下(熟れた実)では体サイズの遺伝率が高くなり、武器形質と精巣サイズも大きくなっていました。

一方、中程度の栄養下(熟れてない実)では、武器を最も大きくなりやすいが、精巣が小さくなるものの、この栄養条件では両形質の遺伝率がほぼ0になることが分かりました

これらの結果から、武器形質と精巣サイズに対する遺伝的変異は、偶発的に高栄養下に遭遇した際に顕在化するものの、より普遍的に栄養条件が悪い局面では、精子競争より配偶競争が優先される戦略が固定されている可能性が示唆されました。
 
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