生物が、生まれた場所から離れたて生活を始めたり、一旦移動した場所から再び生活圏を移すことは珍しくありません。

生態学では、この行動を『分散 (dispersal)』といいます。

子供の頃に、親の都合で引っ越したり、大学入学を期に実家を離れた学生さんは少なくないと思いますが、それも『分散』の1つです。

一般的に、現存する生物はほぼ例外なく、分散すると考えられています。

それは、生息場所が限られ、競争に勝てないとその場に留まれない場合、低い確率でも外から分散してきた侵入者に競争に負けてしまう可能性がある場合、分散しないという戦略は長期的にみるといつか必ず競争に負けて滅びるからです。

分散するにも労力がかかるので、どんな状況で分散するのか、どれくらいの距離分散するのかは、生物によって様々ですが、理論的には分散で死んでしまう可能性がそれなりに高くても、分散行動は進化すると予想されています。

私が分散に興味を持ったきっかけは、モンシロチョウの雌は羽化後翌日には数km先に移動しているが、雄は雌以上に飛び回るが、生まれた場所(e.g. キャベツ畑)からほとんど出て行かないことを知ったからです。

分散パターンが雌雄で違うことは、哺乳類や鳥類では以前から知られていましたし、そのような行動パターンがなぜ進化したのはには複数の説明がありましたが、いずれの仮説もモンシロチョウには当てはまりませんでした。

そこで、モンシロチョウの生活史を反映したシミュレーションモデルを構築した結果、雌が分散前に必ず交尾するというモンシロチョウの繁殖様式が、雄の分散を抑えている事が分かりました。

参考資料:モンシロチョウのその他の行動に関する研究